いまこそ経営理念を見直そう
損害保険業界で新たに始まった「代理店業務品質評価度」。損害保険協会(代理店業務品質評議会)に提出する「自己点検シート」作成に苦慮した代理店は少なくないのではないでしょうか。
40数項目から構成される自己点検シートの各項目は、
①規定等の整備(Plan)
②徹底(教育等)(Do)
③チェック(Check)
④改善(Action)
というPDCA手順に基づき細区分され、その質問数は160近くにも及びます。
対症療法的に対応するよりは、今後を見据えてこれを自社の体制を再構築する機会ととらえ、会社の運営全体を抜本的に再構築した方が効率的であり、さらには成長の観点からも効果的かもしれません。
その場合の出発点となるのは経営理念やビジョンです。自己点検シートでも「経営理念・経営計画」*1という項目は登場します。
・経営理念、使命、ビジョンを語る意義
自社を紹介する場面を想像してみてください。このとき、
「わが社の本業は~で、創業〇〇年、売上〇〇億円、社員〇〇名の会社で、特徴は~です。」
よりも、
「わが社は~という使命感を持ち、~を目指し、~という価値観のもと、それを実現させる会社です。創業は…」
とした方が、相手にとっては印象が残りやすいのではないでしょうか。
自社を紹介する場面は、新規顧客との初商談、対従業員、対出資者、対地域、金融機関への融資申し込み、公的機関への補助金申請など多々考えられますが、いずれの場合にも効果的だと思われます。
また、長らくお付き合いのある既存の取引先であっても、環境の変化や世代交代などを考えると、同様のことが言えるのではないでしょうか。
・業績に関係する優れた企業の経営理念・ビジョンとは
コロナ禍では多くの企業が危機に瀕し、事業そのものの抜本的見直しを迫られました。
この危機を乗り越えるための中小企業の経営力強化をテーマとした2022年度版中小企業白書*2では、経営理念やビジョンについて、調査会社の調査をもとに優れた企業の経営理念・ビジョンと業績の関係を分析しています。
これとブランド戦略、人財育成の3つの取組により事業再構築を促す必要があるとの結論が導き出され、これが空前規模の予算を投じた「事業再構築補助金」*3政策導入の根拠となりました。
経営理念やビジョンの中身が、優れた企業を判別する指標の一つになっていることが推測されます。
同白書は、アメリカの著名なビジネスコンサルタント(Collins,Porras)が提唱する理論*4を引用していますが、その内容は、
経営理念・ビジョンとはコアバリュー/パーパス/ミッションの三つの要素で構成され、優れた企業ではこれが「明確さ」と「共有」という条件を満たしている。
この条件を満たしていない組織は外部環境の変化や課題に対する経営戦略が曖昧となり、対症療法的な経営判断や戦術遂行とならざるを得ない。
というものです。
同白書が採用した調査結果によると、現在(調査当時)の経営理念を誰が策定したのかという質問があり、回答内容は、「創業者」が約37%、「創業者以外の歴代経営者」が17%で、「現経営者」が46%。事業内容や外部環境の変化が経営理念見直しのきっかけとなっている企業も少なくないようです。
・経営理念の見直しの機会は今
損保各社は、自己点検シートに自社固有の観点を加味して代理店評価を行っていきますが、経営理念や方針、経営計画、ブランド戦略、人財育成等を掘り下げて評価対象としている会社もあります。
ビッグモーター問題をはじめとした世間を揺るがす不祥事の続発から信頼を回復するための抜本的改革が業界として迫られている現状は、大きな外部環境の変化といえます。そうであるならば、経営の根本である経営理念について見直してみてはいかがでしょう。
そこから経営戦略・計画策定、ブランド戦略、人財育成・評価・処遇制度、会社案内、ホームページ作成・見直へと進めていくと、自己点検シート項目も包含させた「成長のための事業再構築」が実現できるはずです。
*1 一般代理店用自己点検シートNo.35。質問内容は以下の通り。
①代理店として顧客本位の業務運営を踏まえた経営理念を策定のうえ、従業員へ周知徹底し、定期的に理解度を 確認している。
②代理店としての経営計画(数値のみの販売計画ではなく、代理店の発展に向けた具体的な施策を定めたもの)を策定のうえ、従業員へ周知徹底している。
③策定した経営計画の進捗管理や総括を実施し、PDCAを構築している。
*2 国(中小企業庁)が毎年国会に提出し、公表される報告書で、中小企業の動向や課題、支援施策(補助金等)などが豊富な実例紹介とともに詳細に分析、説明されている。2022年度はポストコロナを見据えた中小企業の自己変革力をテーマに企業の成長を促す取組としてブランドの構築や人的投資、経営者の経営力を高める取組などについての分析が行われている。
*3 コロナ禍で売上が減少した中小企業等が新分野展開・業態転換・事業転換等の「事業再構築」に取り組む際の費用を補助する制度として、2021年(令和3年)に創設された補助金。
スタート時に組まれた補正予算額は1兆円を超え、以降の予算が設けられて2025年3月まで計13回にわかり実施された。
*4 ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則 ジェームズ・C・コリンズ, ジェリー・I・ポラス著
作成:古賀
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